あたま日記

小学生の落書き帳みたいな気持ちです。

水を知れ!お花!

慣れ親しんだものから身を離すことは
どんなものであれ相当の労力を要する。

例えそれが苦痛だろうとなんだろうと
身に染みたものを洗うのはとても難しい。

悲しみで咲く花は、
水が何かをまだ理解できない。



〜間〜


引越し、というか飛び出してからというものの
しばらく穏やかな日々を過ごさせてもらっている。


早朝勤も夜勤もなければ、
危ないバイトもしなくていい。
卑劣な労働環境もないし、
ちゃんと夜寝て、朝起きて過ごしていい。

殴られたり怒鳴られたりする心配もないし、
自分のことを売女や殺人鬼だと言われずに済む。

1日3食食べて、街を歩いて、映画を見る。
なんの気なしに見る花に焦がれてもいい。

カーテンの隙間から漏れる光に絶望を
覚える暇もない。穏やかだ。


コインランドリーに行って、1人帰り道
すれ違う人達、その中の一人として
横断歩道を横切ることがどれだけ純粋に
幸福だと思えることか。

それを伝えられるほど私は言葉を知らない。
言葉も知らなければ、幸福も知らなかった。




〜間〜



帰り道、雨で地面がしっとりとしている。


それでもふと、どうしても自分が酷く矮小で
稚拙で樗材でどうしようもないものだと思う。

どうしてもどうしても拭えない自己嫌悪と、
それと同時に、今ある在り来りでかけがえのない
幸福が音も立てずに消え去ってしまうのでは
ないかと恐ろしくなる。


幸せだと思う心が恐怖に結ばれることほど
悲しくて寂しいことはない。


その恐怖は増長して、黒い渦になって、
コンクリートよりずっと深く暗くじめじめと
私の小さく震え続ける心を侵食する。


悔しい。悲しい。やめてほしい。
私は全てに打ち勝ちたい。


慣れ親しんだ、というより慣れ親しむほか
なかった自身の環境が、今姿形を変えて私を
どう捻り潰そうか、草の影、木の影、人の影から
ひっそりとじっくりと睨んできているようだった。


「お前はそこにいたら駄目だよ」
「お前にはそんな幸福は似合わないよ」
「お前が居るべき場所はこっちだろう」
「お前は、お前はお前お前お前お前」

「お前は死ぬべきだっただろう」


恐ろしかった。足早に帰宅した。
帰宅するというのも本当に幸せなことなのだけど、
酷く恐ろしかった。吐き気がした。


慌てて料理をしたら落ち着いた。
生活を紡ぐこと。
靴を脱いだり、服を脱いだり、
お皿を洗ったり、食器を出したり。


どんなであれ、私は
とにかく生活を紡ぐしかない。
悲しみや苦しみに唯一できる抵抗なのだ。


きっと、一緒に暮らしてるこの人も
私が来て慣れないことばかりで、
変化した環境に戸惑っていることだろう。
嫌な思いもしているだろう。
様々なことを思案しては、生きて、動いて、
隣で笑ったり驚いたりしてくれる。


帰ってきてくれた時、とても嬉しく有り難かった。
コインランドリーから洋服と柔軟剤と
少しの外の匂いを抱えて帰ってきてくれた。

私はいつか、純粋な気持ちで
何も恐れずにお礼が出来るだろうか。


心はグルグルとつむじ風。
オーバーヒートの恐怖は換気扇へ流した。
過去が見せるくだらない悲しみに、
いちいち戸惑っている場合じゃないのだ。


お夕飯を一緒の食卓に座って食べた。



〜間〜


ちらつく光に騙され続けてて絶望が覆う
暗がりで、じめじめとした泥の中で、
悲しみで育った花に色はない。何も無い。
あるのはただ沈むだけの広々とした奈落。

だからといって枯れ果てたわけでもない。

これから水を飲んで、光を浴びて、
好きなように風に揺られたら良いと思う。


お花って、好きだから……。
お仕事始めて安定したら最初に
お花を買おうと思う。
ありがとうって言えたらいいな。