あたま日記

小学生の落書き帳みたいな気持ちです。

ケーキって良かった〜

ケーキを踏んだ。
絵の資料とかになる為に
ケーキは踏まれちゃった。

踏みつける0.000001秒前までは
完璧に完璧な
6号 ホールの、白いホイップの、赤いイチゴの、
ロウソクが並んだ、バースデーケーキだった。

80デニールのタイツ越しに柔らかい、
人肌よりは冷たい、ふわっとした、
羽毛布団よりは硬い、プチッと潰れる、
生肉に触れるような、どこまでも鈍い感覚が
鋭く足裏から全身に伝わった。

最初はぐぶぐぶ潰しながら
あ〜死んでしまったと思った。

とにかくこれはお誕生日ケーキなので、
そこで潰れているのは
12歳の私だったり
14歳の私だったり
19歳の私だったり
20歳の私だったりした。
お〜死んだ。おめでとう。

全てのしがらみゼロ!
お前はいつまでも生まれ変わるんだよ。
強い気持ちになりました。


そのまま体重すべてをのせて
既に原型のないケーキをさらに潰す。
イチゴが半分になって、
スポンジがひとつになったり、
バラバラになったりして、
何もかもが曖昧に。
ケーキもすっかり生温い温度になり、
油分と砂糖を散らばせながら机と足を
汚していった。


つい五分前に歌ったハッピーバースデーが
脳裏の端っこで聞こえてる気すらしてきた。
いえーいじゃねえよな、いえーいじゃ。


アルコールの香りと、
生クリームが溶けだしたぬめり、
イチゴの強い酸っぱい香りと、
ラッキーストライクの煙、
部屋中に延びた「ケーキぶっこわれ空間」で
何もかもがめちゃくちゃだった。

アメリカのバカもさすがに引くだろ!
現実味がねえな!ここどこ!?


歌舞伎町二丁目です。


肉寿司美味しかったね。
ケーキって踏んだら滑りやすいから
嫌いな奴の足元にケーキ配置する魔法とか
使えたらおもろいよね。(代金は相手持ちで)
お金いくら使ったかな、明日もつかな。
ケーキ屋さんには見せられない光景だな。
神奈川県警へ手紙出さないといけないのに
まだ出てないのやべえかな。


脳内は現実味のあることをポヤポヤ
考えたり、現実味のない状況を楽しんだり、
今後の行く末を考えたりする人で
満員御礼。大渋滞してた。
それでもケーキは潰れていった。

足の甲に載ったケーキを人が食べる光景は
ある種のフェチズムに響きそうでしたが、
私にはそういうの無いんで、無だった。
おもしろ映像100!って感じだった。


でもこれで死に際「ケーキを1度でいいから
むちゃくちゃにしたかった……」と後悔せずに
済んだから、うれし〜うれし〜たのし〜

アルコールが尽きる。



〜楽しすぎる間〜



追加料金で氷結を買った。
ニューですって!新しいお味!
なんでもかんでもニューにすれば
いいのかよ!ニューニュー言ってんじゃねえ!
人生は1度たりともニューにならないまま
終わるんだぜ!!!!

そしてまた新たに別のケーキ
(ホールのフランボワーズ)
が顔に飛んできた。
(むちゃくちゃな順接)

普通にフルスイングで早かったので
1コマ目はケーキを持つ相手の笑顔、

次のコマで真っ暗になって、

次のコマで

けーーーーーーき!!!!!!

になった。

足で潰してる時に感じた
5000000000000000000000000倍の
匂い、食感、生ぬるさ、冷たさ、
硬さ、柔さ、すっぱさ、あまさ、
ぜんぶぜんぶぜんぶ
ウケちゃった。

ラズベリーでいっぱいの視界と、
さっきまでロウソクぶっ立ててたキウイと、
白い床に散らばる紫とピンクと、
脂っこい皮膚と脂っこい足と
脂っこい現実だけがそこに。
(だけ、がありすぎ。ありすぎ岳の頂上)

鼻腔に無理やり侵入する生クリームとか
チョコクリームとかスポンジとか
パーソナルスペースの概念ゼロじゃんって
思った。

どんどん頭が悪くなる一方で、脳みその調子は
良くなった。思考が追いつかない楽しさに
逃げてたら反抗期でもないのにこんな子に
なってしまった。すみません。
どうか膝をついて、謝らせてください。
土下座だけは許してください。
ダサくてやってられんので。


〜間〜


低体温の私でも溶けてくケーキと皮膚の
境界線がだいぶ曖昧になり、
煙草だけが唯一現実世界と私を結ぶツールに
なっていたので、何本か箱から出して
安全地帯に置いておいた記憶がある。

ケーキってこんな良いものだったんだなあ。
けきを。

みつを先生に怒られるよ。


皮膚の上でズルズル溶けだすケーキと
べったり髪に張り付いたケーキと
服のあちこちに散らばったケーキと
足裏でぐじゅぐざゃ(ざゃちゃざゅちゃって
感じでした)になったケーキ、
これ全部「ケーキ」って呼んでていい?

本当に?ケーキでいい?
合ってる?

私が私であることを認識するのは他者が
いてこそだけど、ケーキをケーキと認識するか
しないかは私の思うがままであることが
全私中に散らばる「ケーキ達」を見て分かり、
若干の優越感に浸った。


すると登場、口の悪い左脳の友達。


左脳フレ「こんなことで優越感に浸ってていいの?
お前は何してるの? 何がしたかったの?
お前は人のためにしてんの?
お前の為にしてんの?」

右脳フレ「私の為ってなんですかぁ?!?!?
知りませええーーーーん!!!
聞こえませーーーーん!!
ケーキが潰れるのは楽しい〜〜〜〜〜!!!
よいしょ!!!おわり!!!!!!!!!!!!」


〜間〜


脳内の人達が活発になるより先に
右ストレートでぶっ殺しながら
「ケーキ達」を弄び続けた。
転びかけたり転んだり倒れたりして
そこら中に「ケーキ達」の肉塊と、
私の肉塊の、どちらかがどちらかに
ぶつかり合って散乱していて、
ふざけきった絵画のようだった。


ラズベリーを潰すとき、
何かを殺した気持ちになった。
弾けた果汁はどこにも飛べずに
手のひらの生クリームとスポンジの塊に
ヘドロみたいにくっついて染みた。

爆速ケーキパーティの終わりは浴槽だった。